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「世界のどこかで」


第三話「戦災孤児の姉妹と貴族の娘」


「カズマ!! どこ行ってたのよ!!」
帰ってくるなり、いきなりケイトに怒鳴られた。
あーうっせー。
でもこれからの状況でさらに怒鳴ることが予想できたので無視してベットに向かって歩き出す。
すると、俺の行動に頭に来たのかケイトが声を上げようとした時ようやく俺の状態に気がついたのか。
「何なのよ!! その女の子はーーーーー!!」
俺の両肩と足元にいる女の子達をみて絶叫した。
指差して固まっているケイトは放って置いてこの子達に処置をしなくては。
二人をベットに下ろして容態を見るために服を脱がしていく。
「このへんたーーーーーーい!!」
ケイトから後頭部に強烈な一撃が飛ぶが、あっさりかわして体を見ていく。


さてなぜこんな状況になったかというと・・・。

あの戦いの後に時間は戻る。
夜が明けて、捕まえた将軍や隊長・兵士の処置を決めることになった。
重要な役回りの貴族がいなかった為、俺もその処理をどうするかの会議に呼ばれた。
まあ、俺としてはある程度予定があったのでこの会議に参加できるのは儲けだ。
参加できなければ、無理に割って入るところだったし。
「さて、来たわねカズマ。」
ケイト姫はこちらを見てすぐに横の広場に縄で縛られて膝をつかされている将軍や隊長を見つめていた。
すぐ横には、剣を抜いたデュッセル爺もいた。
見た感じ、ケイト姫は頭に血が上っているようだ。
もう、あいつら(捕虜)の処遇を決めているようだ。
その捕虜の中にあの刀使いの女の子隊長もいて神妙な顔つきをしている。
実はあの後、捕虜ということで俺が個人的に話を聞く間もなくほかの兵士に連れて行かれたのだ。
だから、まだ彼女を処断される訳にはいかない。
けど、ケイト姫は予想通り。
「ローベル将軍以下の将軍、隊長達の処罰を言い渡す!!」
もう怒り全開らしい、目に炎が灯っているといって言いすぎでないくらいない。
デュッセル爺だけでなく他の兵士も理解していたのか、ケイト姫が言葉を発すると同時に剣を抜いていた。
そしてケイト姫が声を発した。

私の心は決まっていた、ローベル将軍この名前は知っている、父の部隊を壊滅させ行方不明にした張本人なのである。
いくら、この将軍の武勇と知識があろうと、こいつだけは解放するわけにも、こちらに恭順させる気も無かった。
そして、この将軍が率いる部隊の隊長達も同じであった。
だから私は・・・
「この者達の首を・・・」
続けるつもりだったのだが・・・
「全員釈放ーーー!!」
と横でこの戦いの勝利の要でバカと思っていた平民がこう叫んだ。
「何言ってるのよーーーーー!!」
叫びながら私は彼をテントの中に連れて行き、そして後ろで呆然としている兵士達には。
「一時会議とします。 そのまま待機!!」
カズマの行動に頭に来て怒鳴りながらそう言った。
そしてテントにいるカズマを見ると、なんかダルそうに欠伸なんてしてるもんだから。
「あんたねー!! いったい何が目的であんな事いうのよ!!」
なぜかデュッセルはカズマに何も言わずただ成り行きを見守っていた。
カズマは私の質問を退屈そうに聞くとこう言う。
「姫さんの感情は分からないでもないけどな、あまり殺すのはよくない。」
普通に彼は人殺し良くないなどと言うので頭に来て
「なにがいけないのよ!! 戦争してるのよ!! 相手を殺さないでどう勝つのよ!!」
興奮していた私はそうまくし立てるが、彼は普通に。
「あー、人殺しが良いか悪いかじゃなくてな、今の戦況の為だ。」
カズマは地面を指差して言った。
「戦況?」
私はカズマの言葉の意味が理解できずに聞き返した。
すると、カズマはまるで用意していたかのように言葉を並べ始めた。
「大まかな目的は一つ、敵の進軍の時間を稼ぐ。 今回の勝利は普通では決してありえない勝利だ。」
それはそうだ、十倍の敵軍を覆す戦いなど私も見たことも聞いたこともなかったのに
このカズマはそれをあっさりやってのけた。
「でだ、これの奇跡の勝利を敵に知らしめるにはこの将軍や隊長達を使うのがとってもいい。」
なぜ、それが敵の進軍を遅らせる理由になるかと考えていると。
横からデュッセルが口を開いて喋りだした。
「ふむ、カズマの考えは分かるが、首だけを相手に送りかえせば良いのでは?」
なるほど、デュッセルの言っていることはわかる相手に自国の将軍の首を送れば脅しになるだろう。
だけどカズマは続ける。
「いや駄目だ、それではすぐに大部隊が送られてくる。 先の戦の敗北は偶然負けたのだと。
 よく考えろ、お前達は今まで防戦一方で今回も防戦だ、ただ偶然が重なって倒せただけと見られるはずだ。」
デュッセルは納得がいったように頷いて。
「なるほど、わざと逃がして、我々の今回の勝利が偶然ではなく実力だと知らしめるのだな。」
カズマは頷いて
「そういうこと、特に今回の相手はお前さん達の国を苦しめた敵の名将。 そいつの言葉なら相手も無視できないだろう。」
なるほど、私もようやく理解ができたつまり、それで時間を稼いで・・・
「戦力と敵の攻略を進めるのね。」

さて、釈放するのは良かったがちょいと問題が起きた。
「なぜだ? なぜ私の首を刎ねぬのだ?」
ローベル将軍がこう聞いてきたのだ。
やっぱりコイツかなりの切れ者だねーと思っているとケイトは慌ててこちらに目をやってきたので。
「あれだ、お前らをここで殺さなくても、姫の戦略があれば何度でも追い返せるってことだ。」
俺が変わりにローベルの前にでて言った。
すると、少し妙な顔をして彼が言う。
「本当に、あの作戦、姫の考案か?」
ギク、こいつヤバイよ本当に名将だねー。
ケイト姫はアワアワしてるから仕方ない・・・奥義を使うか。
俺はローベル将軍の横に張り付き。
「ケイト姫の策ですよ、ハゲローベル将軍。」
ハゲの所を強調して言ってみると。
ローベル将軍の顔が青くなり呟くように
「見たのか、貴様。」
「バッチリと、今ここでカツラとってもいいんだよ。」
すると、ローベル将軍は頭を抑えながら後ずさり。
「み、見事な手腕であった姫よ!! そしてその御心の広さ恐れ入った!! だが次は負けぬ!!」
と言うだけ言って走り去っていった。
するとケイト姫が近づいてきて
「そういえば何で私の戦功にしたのよ? あなたの名前が売れるのよ?」
不思議そうに、言ってくるので。
「さっきも言っただろ、俺で策で買っても元から名前がない奴がでても脅しにならないんだよ。
 お前さんみたいなお姫様でなきゃ意味が無いんだ。」
ケイト姫は納得したのかしてないのかよく分からない表情で頷き軍を纏める準備の為、俺に背を向けた。
まあ、本当は他に色々事情があるのだがまだ話す時期ではないだろう。
そう考えながら彼女の背を見ていたのだが、姫がこちらに向き直り。
「そういえば、私のことを姫って呼ぶの禁止!!」
訳の分からんことをいいだしたので。
「なんでだよ。」
と聞き返すと。
「カズマは私より多くの事そして強さを持っている、カズマが私を姫って呼ぶのは私がカズマを全てにおいて上回った時だけよ!!」
フンッと彼女は向き直り歩いていった。
なるほど、彼女、もとい姫いやケイトにも持つべきプライドがあったのだろう。
俺は苦笑いをしながら、今回の本当の目的。
「お、いたいた。」
自分の世界に関する情報を持っているかもしれない金髪の刀使いを見つけた。

私は何も考えられなくなっていた。
戦に破れ、今までの戦功が無駄になったのだ。
まだ、それは良かった。
戦功など又戦で作ればいい、だけど・・・祖父から譲り受けた愛刀は・・・。
「ふう・・・」
私はため息をつきながら、自国とも呼べぬただ雇われているだけの国へ戻る準備をしていると。
「ちょいと、あんた今話していいか?」
話しかけていた男は私の刀をなんと素手で受け止めへし折った男だった。
だが、刀が折れた今闘争心はなく。
「なんだ?」
「あんたさ、俺の部下になんない?」
などとふざけたことを言っていた、この男、戦いに関しては誰の手もいらぬ程の熟練者だ。
戦った私がよく分かっている。
しかし、私の才を認めてくれたのが嬉しかった。
いままでこんな言葉をくれた人はいなかった、女で戦いで戦功を上げても変に見られるだけだった。
あとは女ということで変な目で見られることよくあった。
この男が中身で何を考えているのかはわからなかったが、一応好意がもてたので返答をすることにした。
「貴方のような熟練者からのお誘いだ、戦人として嬉しい限りではあるが、愛用の剣は貴方に折られ力にはなれないよ。
 この剣は特殊なものでね、剣を変えれば同じ動きができるわけじゃないんだ・・・。」
腰に下げた折れた刀を彼に見せ、そういうと。
「ああ、知ってる刀だな。」
「・・・ッ!?」
なんとこの男はこの剣の種類を言い当てた、数が少ない珍しい物でもないのだ。
我が祖父が自分の魂としてもっていたこの世界に一振りのものだ。
なのにこの男はさらに続ける。
「本名備前長岡、業物、乱れ刃。」
刀に掘り込んでいた文字を読んだ、こいつは祖父と同じ場所の出身なのか!?
私が望んだ、誇りのある場所の。
「多分だが繋ぎの金属さえ見つかればその刀直せるぜ。」
「本当か!!」
「ああ、だからちょっとその刀についての話を聞かせてくれ。」
私は嬉しくなって彼の条件を飲んだ、部下になるのも、刀のことを話すのも。
祖父の言っていた日の本の国の男に会えたのだから。
「そういえば、貴方のことはなんと呼べばいい?」
「ああ、カズマでいいよ。」
「・・・祖父と似た発音の名前だな。」
後日直す段取りを見つけると言って私は彼の部隊について行くことになった。
「おい、自分ひとりで終わるのはいいけど、俺はあんたをなんて呼べばいい?」
「ああ、すまない、フールと呼び捨ててくれ隊長。」
「あー俺はカズマで呼び捨てで、上下は感じてくれればいいから。」


で、その後城下に凱旋しながら帰って、ケイトに俺が使う部屋を紹介されそして。
「うむ、よろこべ平民。 私が今日からお前の身のお世話をするメイド長のシャールだ。」
いらん使用人までつけてくれた。
だけど最初の印象は。
「え、何処よ?」
俺の視界にはケイトが手を扉に向けていて底には何もいなかった。
ただ、声だけが聞こえていた。
すると下から
「こっちだ、こっち。」
聞こえるもんだから目線を下に向けると。
小さい女の子が立っていた。
「あ? 子供じゃん!! ケイトよりも年下の!!」
見た感じ130ギリギリあるか無いかの女の子がそこに立っていた。
なぜか、そのサイズに合わせたメイド(給仕)服を着込んでいる。
俺がそう叫ぶと、その女の子はこっちにテコテコ近づいてきて。
「?」
「フンッ」
気分よくプロのボクサーみたいに俺の鳩尾にパンチをストレート気味に入れてきた。
完全に油断していたのでモロに食らってしまった俺は
「がふっ!!」
その女の子の前に膝を付き蹲る形となった。
すると頭上であの女の子が喋る。
「これでも私は15だ、しかし私の一撃で膝を折るとは本当にお前強いのか?」
俺だってノーマルだ無敵ではない、なんとなくその知識があるだけで、油断すればこの通りだが。
「うわわっ!?」
女の子の体が浮く、つーか俺が服を掴んで持ち上げているのだ。
「一応、コレぐらいはできるよ。 ゲホッ。」
鳩尾をさすりながら、言うのだが。
又も予想外に。
「早く降ろさんか!!」
「あ? がっ!!」
浮いている足を気分よく振り上げさらに鳩尾に蹴りを入れてきやがった。
「あはははは・・・!! カズマにとって苦手な人みたいね。」
後ろで傍観していたケイトが笑いながら言ってくる。
見事に着地したシャールと名乗った女の子はこちらに背を向け扉に向かいながら。
「私がお前の世話をするのだが、正直に言うがお前は気に入らん。 じゃあな。 
 姫もあまりこんな平民の部屋に長いしませんようお願いいたします。」
ケイトだけに綺麗な礼をしてあのクソ生意気なガキは出て行った。
それをケイトは楽しげに眺めたあと
「夜になったら、またこの部屋にくるわ。 その時に今後の話をしましょう。 それまでは城下町でも見てみなさい。」
そいってケイトは部屋から出て行った。
「左様ですか・・・はあ、まあ、見学でもしますかね。」

ということで、町に出ようとして兵舎の横を通り過ぎるとふと声をかけられた。
「あ、カズマさんじゃないですか。」
「おお、大将どうしたい?」
先ほどの戦で最後まで俺と一緒に敵陣で暴れまわっていたデイとオッサンのグリイだった。
まあこの二人も、最後は捕まっていたが。
「いやね、時間があるもんだから、この城下町でも見てこようかと。」
門を指差しながらそう言うと。
「カズマさんはここら辺は初めてでしたね。 案内しますよ。」
「おお、今日は大将のおかげで奇襲隊に参加した兵士は大儲けさせてもらったしな、一杯のもうぜ!!」
二人が俺の見学についてくることになった。
オッサンのグリイはなんか違う感じだが。

色々見てまわった、ここの城下町のシンボルの噴水付き広場とか出店が並ぶ場所とか定番のお店とか・・・。
あと、グリイお勧めの酒屋とかな(可愛い給仕がいる店が主)。
で、色々見てまわったので少し休憩することになった。
「ふう、ここは・・・ああ、俺達が帰ってきた入り口か?」
あたりを見回して、記憶と似ていたのでそう思ったのだが。
「いえ、僕達が凱旋してきた場所はもう二つある大通り内の「剣」と呼ばれる道です。」
「慣れてないからな、大将は見間違えても仕方ないぜ、ここは「盾」の通りだ。」
「ありゃ、そうなんだ?」
オッサンが飲み物を抱えてそう言ってきた。
俺とデイはそれを受け取り飲みながら色々話していると、イキナリ門辺りが騒がしくなる。
なんか人がわらわらと門から入ってくる。
衛兵も慌しそうに誘導している。
「なんだ?」
そう、俺はベンチに座りながらボーっとその人の群れを見ていると横のデイが神妙な顔つきで言い出す。
「多分、難民かと。 この戦いで故郷をなくしたんでしょう。」
寂しそうに、デイが眺めながら言うと、横にいるグリイもつまらなそうに。
「さっきの戦いでは勝ったがあちこちでは侵略されてんだ。 まったく、戦争なら民を巻き込まないでやれっての。」
目を細めて空を見ながら言った。
少し、会話が途切れ、人の群れを眺めていた。
色んな人がいた、ボロボロな服装で子供を引き連れながら歩いている母親とか、包帯を巻いた男の人とか。
放心状態でただ歩いているだけの人もいた。
世界は、何処までも、何処に行っても、あまり変わりの無いものらしい。
ふと、子供の泣き声が耳に入った。
「おねーちゃん、おねーちゃん!!」
顔を上げると、遠目に倒れた女の子を揺さぶる小さい女の子がいた。
倒れいる子はもう殆どその子の呼びかけに反応していなかった。
時折手を上げてはその子の顔をなでているだけ。
その子は姉が大変だと思ったのか周りの人たちに助けを求め始めた。
「たすけて、たすけて!!」
まだ発音がおぼつかない、それでも必死に助けを求めているが。
「あうっ。」
突き飛ばされたり、断られたり、無視されたりして、その子の声に応えてあげる人はいなかった。
みんな自分の事だけで精一杯だから。
横でデイが立ち上がる。
「僕助けに・・・!!」
駆け出そうとするデイに向かってグリイが声をかける。
「おい!! やめとけ、お前さんの気持ちは分からんでもないがな。」
「何でですか!!」
デイが振り返りグリイに叫ぶ。
「きっと、まだまだ出てくる。 お前はそれを又助けるつもりなのか? 最後まで面倒が見れるのか?」
「・・・。」
デイが悔しそうに口を噤む。
「多分な、一人ぐらいならお前さんでもなんとかなるだろう。 だけど一人だけだ。
 お前、次の子も見捨てられないぜ、ここでそういう心を身につけな。」
「・・・。」
デイが渋々ベンチに座りなおす。
グリイが呟くように続ける。
「きっとデイよお前さんなら一時的に多くの人助けられるかもしれねぇ。 だけど一時的だ。 その後はまた捨てるのか?」
そしてまた、あの子の声が聞こえてくる。
どうやら、立つ気力をなくしたのか。
「おねがいしますっ!! おねーちゃんをたすけてください!!」
座り込んでこの言葉だけを繰り返していた。
横にいたデイは耳を両手で塞いで目を閉じていた。
悔しそうに、口から時折、くそっ、くそっと聞こえる。
この若者にはちょいと辛かったかもしれない。
デイを気遣ってグリイに目配せをしてこの場を立ち去ろうとした時、事件が起きた。

わたしはおねーちゃんをたすけたかった。
だって、だいじだから、いままでおねーちゃんがまもってくれたから。
こんどは、わたしがおねーちゃんをまもるばんだ。
だけど、だれもたすけてくれなかった。
「たすけてください!!」
おおきなこえでよびつづけた。
けどだれもふりかえってくれない。
ふいにごうかできれいなようふくをきているおじさんをみかけた。
このひとなら、おねーちゃんをたすけてくれるかもしれないとおもった。

「無礼者!!」
叫び声が辺りに木霊した。
「あちゃー、だめだなあの子」
グリイは目を手で覆いながら言った。
あの女の子が助けを求めたのは、貴族の地位の高い奴だった。
多分状況を見るに、この難民の誘導に来たのだろう。
「助けを求める相手間違えたな、打ち首だなありゃ。」
この時代の制度ならそんなものだろう。
「ひっ。」
女の子はその場で驚き座り込んでいた。
貴族のオッサンが剣を引き抜き。
「平民が何たる無礼を、この場で打ち首にしてくれよう!!」
まったく子供のすることだ、少しぐらいは目を瞑ってもいいだろうと思っていると。
「お待ちください!!」
その貴族と女の子の間に先ほど今にも死にそうな女の子の姉が精一杯に立っていた。

私の家族は今はもう妹の「シル」だけだ、この戦のせいで村が焼かれて父さんも母さんも死んでしまった。
私だって何をして良いのか分からなかった、けど私が頑張れたのは妹のおかげだ。
父さんと母さんが死んで呆然としている私の手を握っていたのはシルだった。
妹を見ると父さんと母さんの顔を思い出した。
「ちゃんといいお姉さんになりなさいよ。」
「母さん心配しなくても、エルはいいお姉さんになるよ。」
笑いあっている二人を思い出した。
そしてそれに頷いて。
「うん、わたし立派なお姉さんになる!!」
と言ってる自分も。
そしていつも一緒にいる妹も。
だから私は泣くのをやめて、瓦礫になった家から、使えそうな物をかき集めて一度だけ言ったことのあるお城へ言ってみることにした。
道のりを厳しかった。
妹は疲れたと泣きじゃくるし、持ってきた食べ物も飲み物もあまり多くはなかった。
けど何とか頑張ってお城に着いた。
よく分からないけど妹に食べ物とか飲み水を分けてたのが原因なのか私は倒れて動けなくなった。
妹が目の前で泣いている。
なんとかしないと。
私は頑張って片手を上げては妹の顔を撫でて泣かないでと言う。
何回か撫でたあと妹は私を置いて助けを求め始めた。
ああ、私は死にそうなのか。
ようやく、自分の状態が理解できた。
妹がなぜ泣いてるかも、私のせいらしい。
けど、まったく体は動いてくれない、眠くもなってきた。
少し眠ろうかと思ったとき、何かの叫び声と妹の悲鳴が聞こえてきた。
顔を妹の声がした方向に向けると、貴族の人が妹を叱り付けて、剣を抜いていた。
「守らないと・・・。 だって大事な妹だから。」
私はそうつぶやくと、動かないはずの体を動かし、妹と貴族の間に割って入った。
「お待ちください!!」
貴族のオジサンが私を考えるように眺めている。
「私は、この子の姉にございます。 妹の無礼の罰は私が受けます。 だから妹はお許しを。」
膝がガクガクしている、怖いのではない、もう立つことですら辛いのだ。
「いやだよ、おねーちゃん、いやだよ!!」
妹が腰にしがみつき泣いている。
だけど、妹を助ける手立てはもうコレしかない。
「ふむ、その心意気、よかろう。 お前の首でその娘の罪は問わぬ。」
そいって貴族のオジサンが剣を振り上げる。
ごめんなさい、父さん母さん、私は妹を守ってあげられるいいお姉ちゃんにはなれませんでした。
「いやぁぁぁぁ!!」
妹に叫び声を聞いて私は死んだ。

「ぬっ!!」
間一髪、崩れ落ちた女の子を地面に激突する前に抱き上げることに成功した。
ついでに、オッサンのショボイ剣戟も素手で止めていた。
見た感じ、本当に死に掛けてるな。
早く治療しないと。
「キサマ!! 無礼だぞ!!」
貴族のオッサンは声を荒げて距離をとる。
「あ?」
すこし気持ちが高ぶっていたかもしれない。
いきなり飛び出した俺を見たデイにグリイは慌てていた。
「キサマもこの場で打ち首にしてくれる。」
俺に邪魔された事が相当頭に来たのか杖を引き抜き呪文を唱え始めた。
「・・・。」
無言でオッサンの状態を見守ると足を引っ張られる感覚があって下を見ると。
「おねーちゃん、おねーちゃんは!!」
先ほどの子が心配そうにこちらを見上げていた。
俺は彼女の目線に合わせるため膝を折ってその子のお姉ちゃんを優しく地面に横たえる。
「大丈夫、少し寝てるだけ。 あとで俺の部屋に連れて行って休ませてあげよう。」
頭をくしゃっとなでると女の子は喜んで涙ぐんで。
「ありがとうございますっ。」
「いえいえ。」
そう言って立ち上がると、デカイ火球を浮かべた貴族のオッサンが血管を浮かべて笑っていた。
「私を無視するとは、ええい、その子供達諸共消し炭になるがいい!! 火球弾!!」
相変わらず魔法は漢字読みらしい、ファイアーボールって言い方は無いのかね。
俺はよけることもしないで、上着を脱ぎ手に巻きつけていた。
「逃げればお前だけは助かるかも知れんぞ!! 子供達は黒焦げだかな!!」
「そうですかっ!! どっせい!!」
上着を巻きつけた右腕を引いて力いっぱい素早く前に出した。
「へ?」
貴族のオッサンは変な声を上げていた。
それもそのはず、敵に向かって投げていた火球がこっちに向かって飛んできているのだ。
慌てて相殺したものも威力を殺しきれず、吹き飛ばされる形になる。
そして気絶した。
「バーカ。」といいつつ焦げた上着を着なおし。
二人の子供を抱えて、後ろにいるデイとグリイに告げる。
「解毒の薬と、薬草みたいなの、一種類づつ買えるだけ買ってきてくれ!! 先に戻ってるから!!」
そう言うとデイは嬉しそうに、グリイはなんともいえない顔で
「はい!! 任せてください!!」
「わかったよ、大将はその辺の事情理解してると思ったんだがな・・・。」

そして全速力で城に帰っていると。
妹の女の子が。
「お兄ちゃん、なんか辛そうな女の人がいるよ!!」
と指を刺していっている。
見ると、今にも倒れそうな、女性が立っている。
まあ、俺から見れば女の子だな。
「ねえ、助けてあげようよ。」
なんか悲しそうに言っている。
「おいおい、君は何処に捕まるんだ? 結構お姉ちゃん危ないんだぞ? ゆっくりしてる暇ないんだぞ。」
そう言うと、少し考えたあと。
「大丈夫、お兄ちゃんの首に捕まってるから。」
「おい。」
そう言うわけで、身なりの良い多分貴族だろうと思う女の子を抱えて自室へ走ることになった。
妹さんはキャッキャッと楽しそうだったかが、俺は首が極まらないように頑張るだけで誠意一杯だった。


で、話は冒頭に戻る。
「変態でもなんでもいいから、ちょっとシャールを呼んで来てくれないか。」
ケイトは近づいて文句を言おうと思ったらしいのだが、彼女達の体を見た途端。
「わかったわ、すぐ呼んで来るから!!」
駆け出して部屋を出て行った。
脈拍、呼吸、ふむ。
貴族の娘さんらしい子はまだ大丈夫そうだが、こっちの姉の方はかなりキケンだな。
今夜が勝負だ。
見たところ、栄養の不摂生と不衛生が原因で蔓延る疫病の類いだ。
こんな世界では仕方あるまい。
そう診断しているとケイトと入れ違いにデイとグリイが入ってきた。
両手の皮袋にたくさんの草を入れて。
「只今戻りました!!」
「まったく、これで今回の金がパーだぜ!!」
「心配するな、後で金は払うよ。」
そう言うとすぐに、彼らから薬草をもらい使えるものがないか見ていくことにする。
これも駄目、これもだ、これも、よしコイツはいける。
予想通り、ある程度俺の知識に入っている薬草も多々あった。
すると後ろからグリイが言ってきた。
「大将よ、薬草だけじゃ治らんぜ。 知ってると思うが薬草ってのは一種の強化薬だそれで魔法の力を高めるんだ。
 多少の傷や病気には効いたりするが、そこまで容態が悪いと魔法使いでも無理だぜ。」
あきらめろ、とグリイが言う。
なるほど、魔法が発達しているとそう言う認識になるのか。
便利なものが優遇されるんだなーと思いつつ薬の調合に入る。
「まあ、なんとかなるさ。」
気楽に笑って言うとグリイは肩を落として後ろへ下がる。
「なんとかなるんですか?」
デイが心配そうに声をかける。
「ああ、なるね。」
「凄いですカズマさん!!」
と、会話を続けるとシャールとケイトが戻ってきた。
「このバカめ!! 病人を入れただと!! ほら水にお湯だ!! それに清潔なタオル!!」
シャールは憎まれ口を叩きながら、テキパキと準備してくれた道具を周りに下ろす。
「どう、カズマ助かりそうなの?」
ケイトが近づいて様子を聞いてくる。
「貴族の娘さんは大丈夫だ、だけど、こっちの女の子は危ないな、体力が持つかわからん。」
薬を作りつつ目をやると心配そうに姉に付き添う女の子がいた。
ケイトもその子が目に入ったのだろう。
「あの子は?」
「今寝てる子の妹らしい。 道のど真ん中で助けを求めてたよ。」
そう言うとケイトが近づいて、その子の横に立つ。
「?」
女の子は不思議そうにケイトを見上げるとケイトの体が言葉と共に淡い水色に光がこぼれる。
呪文の詠唱か? そう思っていると。
「姫様!! そんな平民の子供に姫のお力を使うことはいけません!!」
シャールがケイトの行動に気がつき止めようとするが。
「いいのよ、私が民に出来ることはこのくらい。 水の癒しよ。」
いやさ、助けてくれるのはいいけどヒールって言えないのかね?
イキナリ頭を叩かれた。
横を見るとシャールが不機嫌そうに。
「姫がここまでしているのだ、助からないだろうが、最善を尽くせ。 いいな。」
こいつはこの病気を知っているのか、悲しそうにその子達を見るとまだ準備するものがあると言ってデイとグリイを連れて出て行った。
「おら、こい、おのボケナス共!!」
「うわ、す、すいませんシャールさん!!」
「ヘイヘイ。」


結局、二日続けて怒涛の日となってしまった。
「ふう、なんとか峠越えたな。」
俺は冷や汗を拭きつつ横で静かな寝息を立てている姉妹と貴族の娘を見た。
「・・・。 私は助からないと思った。 この病気、かかると殆どが命を落とすのよ。」
「お前、何者だ? 平民。」
治療を手伝ってくれていた、ケイトにシャールが不思議そうに俺を見つめている。
俺はある程度言葉を考え。
「薬草ってのはな、組み合わせ次第で特定の病気には絶大な効果があるもんだよ。」
と、細かい説明は省いてそういった。
言った所で理解は出来ないだろうから。
ケイトも近くの椅子に座り込み。
「あー疲れた。 そういえば今後の予定話すはずだったのに。 カズマのせいで。」
それを見たシャールが歩き出し。
「平民、お前を少しは認めてやる。 姫少々お待ちをお食事をお持ちします。」
言って出て行こうとするので。
「俺の名前はカズマだ覚えとけチビ。」
「フン、まだまだ平民で十分だよ。」
そう言って、俺がこの世界で3日目の朝を迎えた。



第三話「戦災孤児の姉妹と貴族の娘」終わり


所であの二人はというと。
「おい、姫様の食事だちゃんと作れよ!!」
シャールが台所でこの場にふさわしくない二人に指示している。
「まあ、たまにはこういうのもいいですね。」
デイは前向きだが。
「二度としねえ。」
グリイは悲しそうな顔で料理をしていた。